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□ 第1部 [ ベランダ ] □

□ Veranda □

(ベトナム編)

『メコンデルタの人々』:@

ナカジマさんと会う前に、僕はシンカフェのツアーに申し込んでいた。

 翌日、早起きをしてバスに乗り込む。そのバスは大勢のツアー客を乗せて、メコンデルタ地方へと向かった。


 茶色く濁ったメコン川を、ボートに揺られてゆく。

 川岸では、アヒルが時折首をかしげながら「げぎゃぁ、げぎゃぁ!」と叫び(こんな鳴き声でいいのか!?)、人々はその川で髪を洗ったり、服を洗ったりしている。

 子どもたちは駆けてきて、こちらへ笑いかけながら手を振る。

 そういうのをみると、僕も参っちゃうわけだ(←『ライ麦畑でつかまえて:野崎孝 訳』風に)。笑いかけて手を振るしかないというか、それに抗う力を持ち合わせていないというか。

 とにかく、メコン川下りは、流域に住む人々の生活を目の当たりにできて新鮮な感じがする。メコンの流れは、このあたりの人々にとっては欠かせない存在なのだ。

「しかし物凄く濁ってるな、この河……」

「肥沃した土地から流れてきたから、こんなに茶色いのかしら」

 とこう言ったのは、バスの中で出会ったヒラノさんというオバサンである。

 彼女はボランティアとしてベトナムを訪れ、一年間日本語教師として働いたのだという(彼女からその日本語学校の名刺をもらったので、見学に行ってみようと思ったら、ちょうど休みで結局行けずじまいだった)。

 彼女はその一年間のボランティアを終えて、そろそろ帰国するのだという。

 ヒラノさんには色々と良くしてもらった。

 僕が今でも思い出すのは、フローズンヨーグルトをおごってもらったこと。

「おごってもらったから…」という損得感情で憶えているのではなくて、フローズンヨーグルトにビックリしたから思い出すのです、勘違いしないように! ヒラノさんだけにかぎらず、出会った人のことは少しも忘れてない。その人とどこへ行ったとか、何をしたとか……、おお、ついつい話が脱線しちゃったよ。

 そのフローズンヨーグルトの価格は1000VND。1ドル15000VNDなので、日本円にすると約8円。

 日本円にしてみたら「やっすいなぁー、オイコラ」と思うところだけど、外国には外国の物価があるというものさ。1000VNDはこの場合妥当な値段(500VNDで売っているところもある)。

 で、そのフローズンヨーグルト、小さな袋に入っていて、先を輪ゴムで結んである(色々あるけど、僕が食べたのはそれ)。食べるときは、袋の下の角を食いちぎって、チュウチュウと気長に吸うか、一気にガブリガブリと食べる。

 甘くて、酸っぱくて、ひんやりとしていて、暑い日中だと最高の幸せをゲットできる。


 ボートでの元ベトコン基地見学(ただの林だった)が終ると、バスはチャウドックという街へ走り出した。

 とんでもない悪路であった。舗装など一切されておらず、振り返るとバスの後ろで赤い砂塵が巻き起こっていた。道ばたの植物も砂で赤く染まっている。

「こんなに砂埃が巻き上がるんじゃ、洗濯物を干すのも大変だなぁ」

 と、びよんびよん、と悪路のせいでバネのように座席から跳ね上がりながら、僕は考えた。

 しかしやばいほど悪路だなーッ!


 僕はメコンデルタ三日間のツアーに参加していて、ヒラノさんは二日間のものだった。

 だから二日目、僕は彼女と別れ、結局ひとりになってしまった。僕のほかに三日間のツアーに参加していたのは、イスラエルのカップルとイタリア人夫婦の四人だった。

「僕は剣道をやっているんだよ。日本には是非行きたいけど物価高いよねェ!」

 と言ったのはイタリア人のガブリエルだった。そこですかさず、

「僕は弓道をやっています!」

 と威張り散らしながら言うと、ガブリエルは笑って、

「あれは良い。とても綺麗だよ」

 と手を打って喜んでくれた。

(なんだよ、僕の英語だって捨てたもんじゃないじゃん!!)

 とひとり得意げ。

 二日目の朝はそのようにしてはじまった。

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