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□ 第1部 [ ベランダ ] □

□ Veranda □

(ベトナム編)

『サイゴン・シティ』:C

「ねえ、ベトナムの料理、なんか食べた? アタシさっき、シンカフェのレストランで食べちゃったからさ」

「あー…」

 と僕は考えた。「そうそう、食べた。食べましたよ。ゴイ・クン(生春巻き)。あとなんか肉の団子みたいなヤツ。フォー(米麺)はまだ食べてないですね…」

「あー、生春巻き! どうやった、それ?」

 僕は思い返して、正直に答えた。ほら、僕って生まれてこのかたウソをついたことの無い正直者だからさ。ウソです。

「生春巻きねェ…」


 ――バイタクに連れて行ってもらった市場で、僕は軽く昼食を取った。その市場というのも、バイタクのオッチャンに勝手に連れて行かれたところだったから、もうどうにでもなれ!と言った感じで、

「オッチャン、美味しいもの食わせるところ教えてよ」

 と言うと、そのフードコーナーへ連れて行かれた。

 根が適当な性格なので、とにかく適当に何種類か選んだ。とりあえず生春巻きは入れておいた。「ベトナムに行ったら生春巻き!」と勝手に決め付けていたので…。

「どーれ、いっちょ食ってみっか」

 米皮が薄いので、中身が透けて見える。エビが入っている。そして春巻きのお尻のあたりから、なんか草が出て(はえて)いる…!?

「よしッ!」

 僕は気合を入れて、生春巻きをタレ(魚醤に唐辛子を浮かべてある。魚醤(タイで言うナンプラー。ベトナムではヌック・マム)の独特のニオイと味を嫌う人もいるけれど、僕は大好きです。魚醤は最高だとおもう)につけて、さっそく頂く。

 咀嚼する。

 ……、……。

「クサッ!! アオクサッ!!!!」

 なんじゃコリャ!? なんの草!? 青臭い!!!!!

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ……!?!?!?」

 僕は吠えた。

 クサだけにクサイ。青いクサだけにアオクサイ。

 いや、そんなギャグを言っていられないほど、青臭さが口の中いっぱいに広がって、好奇心に満ち満ちていた清廉潔白な少年の夢と希望をぶち壊し、底の見えないボットン便所の奥深くまで僕を押し込めたのであった、その生春巻きというモノは。

 自慢じゃないけど、これ以来生春巻きは僕にとって鬼門です。

 香草を丸ごと一束(一本じゃない。一束)入れるなよッ!! 思わず叫びたくなった。パクチーは好きなんだけどね…、でもせめてパクチーくらいに細かく刻んで欲しかったよ…。一本は冗談抜きできついよ…。


 次に挑戦してみたのが、串に刺さった(?)キリタンポ状の肉団子。生春巻きがダメだったので多少警戒していたのだけれど、

「こ、これはッ!!」

 と叫ぶほど、それは美味かった。とある料理漫画のように、口から光が飛び出たよ。

 こりゃ美味い! 良く焼けた肉が、魚醤とベストマッチ! こりゃ美味い!!

「なるほどぉ、あのこの肉団子は生春巻きの口直し用にあるんだぁ…」

と無茶苦茶なコジツケを行い、ひとりアノ不味さに納得した。


「……とまあ、そんなことがあったわけです」

「そ、そうなんやぁ…、生春巻き期待してたのにぃ…」とナカジマさん。

 断っておきますが、飽くまで僕個人の味覚の問題です。「生春巻きがだぁ〜い好き!」という人に、僕はたくさん会いました。


「アイカワくん、明日はどうするの?」

 とナカジマさんが尋ねる。

「おれ? うん、明日はねェ……」

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