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□ 第1部 [ ベランダ ] □

□ Veranda □

(ベトナム編)

『サイゴン・シティ』:B

「10人集まったら、ガイドがつきます」

 と、入り口の看板には書いてあった。

「ほーッ、ガイドかぁ。これはまた便利なもんだ。うんうん」

 とひとり感心しながら、それを無視して中に入った。だって10人でしょ? 僕ひとりだし、集まるまで待つなんていやだし…、それに英語ガイドじゃわかんないしねェー、あははー(←かなり自己中)。

 そう、個人旅行の痛いところは、そこにある。観光地へ行ったとしても、その場所の歴史的背景とか、そういったものがなかなかわからないのだ。

 もちろん、英語に長けているのなら、ガイドの説明もわかるし、説明文とかを読んで納得もできるのだろうけど。僕もトライはしてみたのだけれど、途中で知らない単語が出てくると即、挫折。ダメな奴です。やっぱり英語は必要不可欠だと思った。

 そんな僕だから、統一会堂に入っても、ただ「ベトナムの偉い建物」くらいなわけで。さすがに「これではいかんッ!」と思って大ホールへ入ったとき、ちょうど、ドコゾのツアーの人たちがガイドさんの説明を受けているところに出くわした。

 英語だったけれど、「聞くだけ聞いてみるか、おれってチャレンジャーだなー」と自画自賛しながら、さりげなくそのツアー客の中に混じった。

 ガイドさんが言う。

「ここはあれがあれなわけで、それがそれという歴史があります」

「ふむふむ」と僕。

「カクカクシカジカ、マルマルバツバツなのです」とガイドさん。

「なるほど、なるほど」

「この場合、aとbはイコールですので、ゆえに、QED(証明終り)」

「そうか、そうか」

「つまり、この宇宙船に乗ってピッコロがナメック星よりやってきたことがわかります」

 そして、ガイドさん率いるそのツアー客一行はその部屋を去っていった。僕はひとりぽつんと腰掛けたまま、うんうんと大きく頷いていた。

「何言っていたのかさっぱりわかんねーや」


 その日はもう、ばかみたいに晴れていた。晴天。

 屋上から見るサイゴンの景色は悪くなかった。そう高いわけではないから遠くまでは見渡せないけど、それでも会堂前の道路の様子や喧騒が伝わってきた。

 いやあ、平和っていいナァ、とつくづく思った。


「で、ナカジマさんは明日どこをまわるんです?」

 よろしかったら僕が一日エスコートしますよ…、と言う前に、彼女は答えた。

「明後日には帰国せなあかんから、明日はシンカフェ(ベトナムにある老舗のツアー会社。各主要都市にあり、市街地一日ツアーや近隣の名所ツアーその他、また隣国へのバスチケットなども取り扱っている。中国人経営らしい?)のツアーで市内を回ってみようかと思っとるんよ。どこかオススメのところあるん?」

「おれがすすめたいのは…(やっぱり可愛いぃぃぃッ!!)」


 戦争証跡博物館は怖気がする。

 ベトナム戦争時に用いられた兵器や武器、戦闘機などが展覧してあり、当時の写真(沢田教一のピュリッツァー賞受賞作『安全への逃避』など)も飾られている。

 どの解説を読んでも「悪いのはアメリカだぎゃ!」という一方的な見解しか書かれていないので、それが参考になったかどうかはわからないけれど、とにかく、戦争の悲惨さは充分にわかった。

 僕は戦争を厭う。と、改めて再認識。

「何の恨みも憎しみもないのに、敵国だけというだけで人間を殺す、命令だから殺す、というのは一体どんな気持ちなんだろう」と真面目な思考をしてみたりもする。これはとても難しい問題だ。

 と、まあ、そんな感じでゆっくりと展示場を見て回っていて、ふと、ある一角で足が止まる。

「なんだこれ?」

 枯葉剤の影響によって生まれた奇形児のホルマリン漬けだった。

「なんで腕がないんだ?」と僕は思った。

「なんで頭がこんなに大きいんだ?」と僕は思った。

「脳が無いってどういうことなんだ?」と僕は思った。

 今僕は人間の厭らしさを目の当たりにしている、と思った。僕もこれをした人間と同じ存在であると考えると、とてつもなく悲しくなってどうしようもなかった。

 真面目な話ばかりで悪いけれど、これは、泣きそうだ。

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