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□ Pre-Epilogue □

『成田が見えた』

夜の闇を飛行するカンタス旅客機のフライトは、着陸まで一時間を切っていた。離陸時は(十時間は長いよなぁ…ったくよぉ)と思っていたけれど、いざ乗ってみると、やはり早かった。

 メルボルンからここまで、たったの十時間。たった十時間でもう成田とは、少し奇妙な感じがする。

 一睡もしなかったせいか、疲れで頭が少しぼうッとしていた。

 機内が俄かに騒々しくなった。着陸まではまだ時間があったのだけれど、人々はもう降りる準備をはじめていた。

 アナウンスが、眼下に東京湾が見えると告げた。白人の一人が、窓に額をへばりつかせてそれを見下ろしている。僕は中央の席を一人で占めながら、白人の見下ろしておる東京湾を横目で眺めた。

 遠くに街の明りが見えたような気がしたが、それよりも、滑走路や管制塔に光る灯火に目を奪われていた。

(日本に帰ってきた。成田が見える)

 それは感慨とは程遠い感情だった。

 旅客機は長い間成田空港上空を旋回していたが、やがて静かに滑走路を目指して高度を落としていった。激しいショックとともに、旅客機は滑走路に着陸した。

 シートベルトランプが、物憂げにともっていた。

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