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□ 第1部 [ ベランダ ] □

□ Veranda □

(ベトナム編)

『サイゴン・シティ』:@

昨夜は疲れていたせいか、九時には既に床についていた。九時とはいっても、二時間の時差があるので、日本時間の午後十一時のこと。

 朝方ではあったが、ベッドをごろごろと転がりながら、(暑いなぁーったくよー、このアタリメどもがぁー!!)と思った。壁が薄いからなのか、ファングーラオ通りを疾走するバイクのエンジン音と絶え間ないクラクションの音が、部屋まで響いて届いてきた。

 ちょーッうるさかった。


 昨日、エコノミーでとっていた席がオーバーブッキングして、ビジネスクラスに乗り込んだ。通路を進んでいくと、

「こっち、ビジネス」

「あっち、エコノミィ」

 という看板があって、(え、おれこっち? 本当にこっちで良いの?)と不安になってしまった。なんせ、それまでの人生でブルジョワなんかとは縁のない人間だったので…。

 とにもかくにも、乗客がエコノミィの方へ流れていく中、僕は小汚い格好をしながらビジネスに乗り込んだわけで…。

 飛行機旅行の醍醐味ともいえる機内食も、美麗で美味しかったけれど、なんとなく気持ちは落ち着かなかった。(庶民には庶民的なものをくれよッ!)と思わず叫びそうになったけど、これって贅沢な意見なのかしら?

 機内から見た窓外は真っ白な雲海だった。いつ果てるともわからない雲海の上を、旅客機は飛んでいた。大地などこれっぽちも見ることが出来なかった。

(パズーの親父はこんな雲海の中でラピュタを見つけたんだろうなぁー)と一人ジブリアニメの物思いに耽った。その頃はまだ、自分がラピュタにとてつもなく近づくとは思いも寄らなかったわけで、でもまぁ、その話はまだまだ先の話だし、なにより自分はそのラピュタ遺跡に行っていないわけなんだけど…。

 やがてその雲海をも抜け、飛行機は地表の上を飛び始めた。赤い大地だった。  椰子の木が当然のように立ち並んでいて、家々は薄汚く、日本で見続けてきた風景とは何もかもが違っていた。

 サイゴン市(現在はベトナム戦争時に活躍したホー・チ・ミンにちなんでホー・チ・ミン市と名を変えているが、未だサイゴンと呼ぶ者は多い。終戦しドイモイ(経済政策)が導入されてからは、サイゴンという名は忌避すべき名として扱われているが、それが国民に浸透しているとは言い難い。なにより、サイゴンという呼び名が人々の間では定着してしまっている。ホー・チ・ミン市として国民に根付くには、もう少し月日がかかりそうである)は広かった。

 遠くに大きすぎる雲が見えて、(まだ六月なのに、なんか一気に時間を飛んでしまった気分だなぁ。真夏だなぁ、おい)と、またくだらない事を考えた。

 空港を出、タクシーを拾って市街地へと向かった。

 ベトナムは日本とは違い、車両は右側を走る。車道に出てまず驚いたのは、バイクの多さ! 後からわかることだけど、これら大量のバイクのほとんどがホンダ。そのホンダが、交通ルールなど全く無視して疾走して行くわけだ。少しでもスペースがあればそこに割り込み走り去って行く。

 慣れていない僕は冷や冷やモノであったけれど、ベトナム人は慣れたものなんだろうねぇ。なんといっても、生活の一端を担う交通手段だし…。とにかく僕は、感心するというよりも呆れた。さすがにクラクションが絶えなかった。


 宿は朝食付で、メニューはフランスパンに目玉焼き、バナナ、そして噂のベトナムコーヒーだった。

 ベトナムのパンは美味しい。特にフランスパンが絶品である。

「暑い国ではイースト菌がウンヌンカンヌンで、美味しいパンができるのだ、恐れ入ったか」と後に誰かに教えてもらったんだけれど、よくは覚えていない。  僕はその後に、フランスパンサンドであるバイン・ミと衝撃の出会いを果たすことになる。ま、詳しいことはそのときに語ることにしよう。

 ベトナムコーヒーはむっちゃ濃い。聞くところによると、豆をバターで炒るらしい。

 非常に濃厚な味わいで、とてもではないけどブラックでは飲めたものじゃない。

 しかし朝食のメニューを聞きに来たアオザイ姿(ベトナムを知る人間で、アオザイを知らない者はまずいない。アオザイは普段着としてではなく、正装、お出かけ着、学校の制服などに用いられる。女性たちは自分のアオザイにとても気を使っている。ちなみに白いアオザイは「モザイクかけろよ!」と言いたくなるほどスケスケ)のお姉さんに、「ブラックか、ミルク入りか」と聞かれたときには、日本と同じ感覚でついつい、

「おれって大人だから、ブラックでヨロシク、ベイベー」  と答えてしまった。

 ところが現実は過酷だった…。あまりに苦い。

 でも我慢して飲んだ。しかし、(いやぁ、大分飲んだなぁ、おれは頑張った)というところで、違和感があった。

「ん…」

 僕は絶叫した。

「なんじゃこりゃぁぁあぁぁぁぁああぁぁぁぁッ!?!?!?」

 地獄のように甘いシロップが、底にねっとりと溜まっていた。

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